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改正労働安全衛生法のポイントを解説―企業が押さえるべき5つの実務対応

By: LexisNexis Marketing

近年、フリーランスの増加や労働者の高齢化、メンタルヘルス不調の増加、化学物質管理の高度化など、企業を取り巻く労働安全衛生上の課題は大きく変化しています。

こうした環境変化を踏まえ、2025年に「労働安全衛生法」が改正されました。改正内容は2025年から2027年にかけて段階的に施行され、企業には継続的な対応が求められます。

本記事では、各改正項目の概要と企業実務への影響を整理し、押さえておきたいポイントを解説します。(解説:TMI総合法律事務所 / パートナー弁護士 原雅宣 氏、弁護士 貞松典希 氏)

 

 

目次

  1. 働き方の変化を踏まえた労働安全衛生法改正の5本の柱
  2. フリーランスを含む個人事業者にも安全衛生対策を拡大
  3. メンタルヘルス対策強化へ―
  4. 化学物質による健康障害防止に向けた制度強化
  5. 機械による労働災害防止に向けた検査制度の見直し
  6. 高年齢労働者の増加を踏まえた労災防止対策



働き方の変化を踏まえた労働安全衛生法改正の5本の柱

今回の労働安全衛生法改正は、フリーランスの増加や労働者の高齢化などの多様な人材が、安全かつ健康に就業できる環境整備を目指すものです。

対象となるリスクには、機械等による労働災害だけでなく、メンタルヘルス不調や化学物質による健康障害なども含まれています。

改正内容は、

個人事業者等に対する安全衛生対策の推進

職場のメンタルヘルス対策の推進

化学物質による健康障害防止対策等の推進

機械等による労働災害防止の推進

高年齢者の労働災害防止の推進

の5つの柱で構成されています。各制度の施行時期や内容は異なりますが、企業には従来以上に幅広い安全衛生管理が求められることになります。



フリーランスを含む個人事業者にも安全衛生対策を拡大

労働者に加えてフリーランスを含む個人事業者の保護が拡大され、発注者には作業方法や納期設定を含む安全衛生上の配慮が求められる。個人事業者による申告制度や災害調査の対象拡大により、労働基準監督署への対応の重要性も高まる。

従来の労働安全衛生法は主として労働者の保護を目的としていましたが、近年はフリーランスなどの個人事業者が同じ現場で働く機会が増加しています。

こうした状況を背景に、最高裁判例においても労働者以外の作業従事者を保護する趣旨が示されたことから、今回の改正では安全衛生対策の対象範囲が拡大されました。

改正後は、発注者や元請事業者に対し、自社の従業員だけでなく、同じ職場で働く個人事業者についても安全衛生上の配慮を行うことが求められます。労災防止措置や作業間の連絡調整の対象も個人事業者へ拡大されました。

なかでも重要なのは、「安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件」の例示として「作業方法」や「納期」が追加された点です。無理な工程や過度に短い納期設定は、労働安全衛生法上の問題として指摘される可能性があります。

一方で、保護の対象となる個人事業者側にも、安全装置を備えた機械の使用や定期自主検査、特別教育の受講など一定の義務が課されます。

さらに、個人事業者による労働基準監督署への申告や災害調査の対象拡大により、企業が監督署による調査を受ける機会が増加する可能性もあり、従来以上に現場全体の安全管理体制が問われることになります。



メンタルヘルス対策強化へ―小規模事業場にもストレスチェック実施を義務化

小規模事業場を含むすべての事業場でストレスチェックの実施が義務化され、高ストレス者への医師面接や職場環境改善につなげる運用が求められる。結果の取扱いを含めプライバシー保護に配慮した対応が必要となる。

メンタルヘルス不調は近年増加傾向にあり、休職や退職につながることで企業にとっても大きな経営課題となっています。こうした背景から、小規模事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されることとなりました。

ストレスチェック制度の目的は、高ストレス状態にある従業員を早期に把握し、医師による面接指導や就業上の措置につなげることにあります。

また、個人単位の把握だけでなく、集団分析を通じて職場環境の課題を把握し、働きやすい職場づくりを進めることも重要な狙いです。

もっとも、プライバシー保護が大きな課題となります。厚生労働省のマニュアルでも、外部事業者を活用した運用が推奨されており、実施体制や情報管理のルールを事前に整備しておくことが望ましいとされています。

なお、誤解しやすい点として、義務化されるのは企業による「実施」であり、従業員個人の「受検」ではありません。受検を強制したり、受検の有無や結果を理由に不利益な取扱いを行ったりすることは認められません。

制度運用に当たっては、プライバシー保護を前提とした運用体制の構築が重要になります。

< 参考:厚生労働省 >



化学物質による健康障害防止に向けた制度強化

SDS(安全データシート)の通知義務違反に対する罰則が新設。合わせて営業秘密に配慮した代替化学名による通知や、個人ばく露測定の制度整備が進む。

化学物質管理に関しては、国が個々の物質を規制する方法だけでは十分な災害防止が難しくなってきています。

実際に、労働災害の多くは現状規制の対象になっていない化学物質によって発生しています。事業者自らが危険性・有害性を把握し対策を講じる「自律的管理」への転換が進められ、今回の改正では、その基礎となるSDS(安全データシート)の通知制度が強化されました。

危険性・有害性情報の通知義務違反に対して罰則が新設され、営業秘密に配慮し、一定の場合には化学物質名を代替化学名で表示する制度も導入されます。

さらに、個人ばく露測定が作業環境測定制度の中に位置付けられ、より適切な方法で労働者のばく露状況を把握することが求められます。

実務経験上、企業においては、化学物質の購入・使用段階だけでなく、製造工程において生成される中間生成物も含めて危険性を把握することが求められます。重大事故が発生した場合には、以下の対応が同時並行的に進む点も見落とせません。

  • 労働基準監督署による調査
  • 警察による捜査(刑事)
  • 被災者や遺族からの損害賠償請求(民事)

平時からSDSの管理、社内マニュアルの整備、教育・研修の実施状況を整理しておくことが、事故回避になりますし、リスク管理の観点からも極めて重要といえるでしょう。

< 参考:厚生労働省 >



機械による労働災害防止に向けた検査制度の見直し

ボイラーやクレーン等の審査・検査業務で民間機関の活用を拡大され、合わせてフォークリフトや建設機械の検査講習の不正対策(資格偽造等)が強化。

機械設備の高度化や行政リソースの制約を背景として、ボイラーやクレーンなどの特定機械に関する審査・検査制度の見直しが行われます。

今回の改正では、設計審査や製造時検査について民間機関が実施できる範囲が拡大され、行政から民間への機能移管が進められます。

また、フォークリフトや建設機械等の資格証偽造や不正講習への対策として、登録機関に対する規制強化や欠格事由の見直しも行われています。

企業にとって直接的な実務影響は限定的ですが、関連業務を行う事業者は制度変更を把握しておく必要があります。



高年齢労働者の増加を踏まえた労災防止対策

高年齢労働者向けの労災防止措置が努力義務として明確化。企業にはまずリスクアセスメントに基づく職場環境改善や設備対策が求められる。突発的な災害だけでなく、腰痛など慢性的な身体負荷への対応が必要な点にも注意。

高年齢労働者の就業が拡大する中、60歳以上の労働者が関係する労働災害は増加傾向にあります。とりわけ転倒や腰痛など、加齢による身体機能の変化が影響する事故への対応が課題となっており、今回の改正では高年齢者の労災防止措置が事業者の努力義務として位置付けられました。

努力義務ではあるものの、安全配慮義務との関係で重要性が高く、企業にはまず、職場の危険要因を把握するためのリスクアセスメントが求められます。過去の労災事例やヒヤリハット事例、現場従業員の意見などを踏まえて危険源を洗い出し、優先順位を付けて対策を講じることが重要です。

対策は、照明の改善や手すりの設置といった設備面だけにとどまらず、作業内容や作業姿勢の見直し、業務配置の工夫などの運用面の対応、また、一人ひとりの健康状態や体力を把握したうえで、それぞれに適した業務を割り当てることも必要です。

留意してほしいのは、転倒などの突発的な災害だけでなく、腰痛や腱鞘炎といった慢性的な身体負荷への対応も必要である点です。こうした症状が長期間の業務によって発生した場合、安全配慮義務違反として争われる可能性もあります。

特に定年後再雇用の場面では、従前と同じ業務が高年齢労働者に適しているかを改めて検討し、業務内容や負荷の見直しを行う契機となるでしょう。

< 参考:厚生労働省 >



まとめ

今回の労働安全衛生法改正は、従来の「労働者保護」の枠組みを超え、フリーランスなどの個人事業者を含む多様な働き手の安全確保を目指す内容となっています。

また、小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の強化、自律的な化学物質管理の推進、高年齢労働者への配慮など、企業に求められる安全衛生管理の範囲は大きく広がっています。

大切なのは、制度対応を単なる法令遵守として捉えるだけでなく、労働災害の未然防止や持続的な組織運営の観点から、自社の安全衛生管理体制の見直す機会、と捉えることです。



プロフィール

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 原雅宣 氏

2005年弁護士登録(東京弁護士会)。2014年ニューヨーク州弁護士登録。自動車、化学、電子部品を始めとする製造業の顧問を多く担当し、これらの業界の、労働災害、メンタルヘルス、不祥事対応、懲戒処分を始めとする労働案件を多く扱う。訴訟・紛争案件を弁護士登録以来、一貫して担当してきた経験に基づき、紛争予防の観点からの戦略的な助言も行う。主な分野は、訴訟、危機管理、コンプライアンス、製造物責任/リコール、労働案件。【事務所サイト

TMI総合法律事務所 弁護士 貞松典希 氏

2022年弁護士登録(東京弁護士会)。東京弁護士会労働法制特別委員会委員。元労働基準監督官。労働基準監督署での勤務経験を生かして、あらゆる業種のクライアントに対し、労働案件全般にわたるリーガルサービスを提供している。労働案件の中でも、労災事故対応、過労死・自死事案対応、行政当局対応を中心に数多く取り扱っている。【事務所サイト



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