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多くの従業員をかかえる企業にとって、社内の不正や腐敗を外部に告発する手段として「内部通報制度」の有効性が指摘されてきています。かつては「密告」というネガティブなイメージもあった内部通報制度の実態について、レクシスネクシス・ジャパンでは、5社の事例をまとめたホワイトペーパー、BLJアーカイブスシリーズ『内部通報制度の運用状況と課題 5社の事例』を発刊しました。
本記事では、同書の概要を企業別にまとめて紹介します。
第1章では、従業員1万人以上のサービス業A社の事例を紹介します。なお、A社の年間内部通報件数は、約百数十件に達しているとのことです。
顧客と直接触れ合うことが多いサービス業のA社では、間違っていることは間違っていると指摘しなければならないという企業文化が根付いています。しかし、問題が起きても職場内で声を挙げるのが難しい場面もあることから、経営陣が内部通報制度を重要視しているとのことです。
通報者がより相談しやすい相談窓口にするために、社内でどのような工夫がなされているのか、その具体的な内容について述べています。
事業者が各地に散らばっているA社では、各部署や事業所ごとに内部通報対応の責任者を置いています。各地に散在する複数の責任者を本社がどのようにまとめているのか、その実務内容についても言及されています。
A社に寄せられる通報内容として、パワハラ・上司との軋轢など各部署の事業所につなぐことが必要な相談だけでなく、苦情や不平・不満などが多く占めています。苦情と通報をどのように区分けしてそれぞれにどう対処しているのか、その対応策の一端が語られています。
A社には海外拠点があり、現地での内部通報制度の状況について、今後の課題点も含めて赤裸々に明かしています。今後、海外事業拡大に伴い、現地の社員数の増加により発生するであろう、現場でのトラブルのリスクについての不安も紹介されています。
第2章では、1万人以上の従業員を擁する小売業B社のケースを紹介します。1万人を超える社員が在籍しているB社の内部通報件数は約700件とのことです。
B社では、社内窓口とは別に法律事務所で受け付ける外部の相談窓口や、取引先業者対象の通報窓口まで設置しています。年間700件という相談件数について、「他社に比べて多い」と感じており、組織内でコンプライアンス担当者が分散していることへの対策などが語られています。
B社の相談窓口に寄せられる相談案件の中で、法的リスクありと考える件数とその内容について触れられています。そして、問題化が懸念される「グレーな案件」については確固たる証拠を押さえることの難しさについての現状が語られています。
B社が取引先業者対象の通報窓口を設置している理由は、独禁法違反の予防への対応策の一環であることが明かされています。運営上の課題や実際の通報内容についても紹介されており、同規模の小売業者の方には興味深い内容でしょう。
B社には多くの外国人従業員が在籍しており、今後も増加することを考慮し、外国語で通報受付できるよう仕組みを作る予定であることが語られています。さらに、現時点での海外現地法人における課題点なども語られています。
第3章は、従業員約250名ながら、数百ものフランチャイズチェーン(FC)店を抱えるサービス業のC社のケースです。C社の年間通報件数は約10件となっています。
C社は、本社と直営店だけだった内部通報制度を数百もあるFC店にまで拡大したことから、対応不可能なほどの相談が寄せられるのではと心配したそうです。ところがそれが杞憂に過ぎなかったことやその要因について具体的に語られており、FC店を展開する企業には参考となることでしょう。
C社の方策として、社内窓口を法務部から人事部へ移管した理由と、外部窓口の実態について述べられています。
内部通報の中には、相談内容に驚いて調査してみると、想定とは異なる内容の案件もあることが裏話として紹介されています。しかしながら、どんな通報であっても一切の予断なく対応することの大切さも同時に語られています。
仮に通報内容の傾向が今後変化することがあっても、C社の内部通報制度自体を変更する必要性を感じていないことが紹介されています。さらに、FC店の従業員からの通報に対する問題点なども述べられているので、FC店を展開する企業の参考となることでしょう。
FC店を展開するC社の危機管理体制について、内部通報制度とリスク管理の関係性について述べられています。また、近年「バイトテロ」として報道される案件についても言及されており、実際に「バイトテロ」が起きてしまったらどう対応すべきなのか、アルバイト従業員を多く雇用する企業にとっての大切な対策といえるでしょう。
第4章は、従業員約3,000名規模のインフラ業D社のケースを紹介します。D社の年間通報件数は、10件未満となっています。
最初に、D社における内部通報制度の実態が語られています。同制度の周知活動や内部と外部の受付窓口について述べられており、外部窓口の担当を顧問法律事務所から専門業者へ変更を検討している理由についても報告されています。
充実した調査体制なくして、単に相談窓口を設置するだけでは意味がないと語られています。さらに、調査メンバーの選定や調査法についても、現場での経験に基づく意見が述べられています。
2018年に内部通報制度に関する認証制度(WCMS認証)が導入され、2022年にはその見直しが決定しています。同制度は、企業が認証を受けることで内部通報制度の質の向上を図ると同時に、認証企業に対する社会的信頼度を高めることを目的としています。認証制度に対する見解やD社の対応について述べられています。
内部通報制度の認証制度に関して、現場からの率直な意見として、課題点を深く掘り下げた内容で語られています。同制度の元になった「ガイドライン」と現実との感覚の相違点が述べられており、認証の申請を考慮中の企業には参考となる意見といえるでしょう。
最近、報道が相次いでいる企業不正事件について見解が述べられています。世間からの内部通報制度強化を求める声に、企業はどう応えるべきかという課題点についても、現場からの経験に基づいた意見が語られています。
第5章は、従業員約1万人以上のメーカーE社のケースです。海外に拠点を持つE社は、国内・海外でそれぞれ約100件ずつ合計約200件の年間内部通報件数があります。
グローバル企業であるE社は、それまでの内部通報制度とは別に、海外子会社を含む全てのグループ会社の共通窓口として、数年前に「グローバル内部通報制度」を導入しています。同制度の内容や制度利用のポイントがまとめられています。
国・地域ごとに法令が異なるため、グローバル内部通報制度の構築には苦労が伴う業務となったことが明かされています。各国・各地域での体制構築に関する課題感は、グローバル企業が同制度の導入を検討する上での参考となることでしょう。
E社における国内の内部通報制度の運用実態やWCMS認証への対応についても、現場からの率直な考えが語られています。また、業者委託による費用対効果というコスト面の意見も傾聴に値する内容といえるでしょう。
最後にグローバル内部通報が内包する現時点での課題と、今後の課題である調査体制や調査対応について語られています。
本記事では、内部通報制度の運用状況と課題をテーマに5社の事例を紹介しました。各社の内部通報制度の課題点や今後の対応策などについて、率直な意見が忌憚なく語られており、内部通報制度をこれから設置する計画がある企業だけでなく、すでに導入済みの企業においても参考になる内容となっています。
レクシスネクシス・ジャパン刊行のホワイトペーパー『内部通報制度の運用状況と課題 5社の事例』は、当社ウェブサイトから手軽にダウンロードできます。本記事で紹介した重要な項目が、同書を読めばより詳しく知ることができるでしょう。この機会に、ぜひご一読ください。
注釈:「内部通報制度の運用状況と課題 5社の事例 」はLexisNexisビジネスロー・ジャーナル2019年6月号に掲載された連載記事です。解説の内容は掲載時点の情報です。