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アジア法務の思考回路「アジア新興国でも電子契約を使用できるか」

アナログからデジタルへ、そしてペーパーレス社会へと、時代は急速に変容しています。電子書籍や電子マネーなどはすでに一般化しており、今後もこの傾向は多くの分野に広がっていくことでしょう。そして、アジア諸国を商圏とする企業にとって大きな課題に「電子契約における法的な問題」があります。特に、アジアの新興国とのビジネスを展開する日本企業にとって、電子契約を使用する場合の法的解釈や今後起こり得るリスクと対応策を把握しておきたいと願う企業の法務担当者は多いことでしょう。

そこでこのたび、レクシスネクシス・ジャパン株式会社が発行する「アジア法務の思考回路シリーズ」では、アジア新興国における電子契約における諸問題について解説した『アジア新興国でも電子契約を使用できるか』と題するホワイトペーパーを刊行しました。本書の著者は、2018年にAsiaWise法律事務所を創業された久保光太郎代表弁護士と、同事務所所属の松村正悟弁護士です。お二人とも、電子契約分野における法的解釈について造詣が深いスペシャリストです。今回は『アジア法務の思考回路~アジア新興国でも電子契約を使用できるか』にて解説されている内容の要点をご紹介します。

Ⅰ 電子契約に関するアジア各国の法制度

企業が従来の方法から新しい方法へ転換する際には、導入後に発生する可能性のあるリスクを事前に把握した上で実行する必要があることは言うまでもありません。特に契約実務に関する事案は、対応を誤ることで企業に甚大な損害を及ぼすケースも決して絵空事ではないでしょう。『アジア新興国でも電子契約を使用できるか』の第1章では、電子契約導入後のリスク回避のための知識として、アジア各国における電子契約の法令制定の状況と、電子署名の法的扱いなどについて解説しています。

1.電子契約に関する法令の制定状況

アジア諸国における電子契約の法令は意外に早く、2000年代初頭には大半の国で法制化されているのが実情です。ここでは、アジアの主要11ヵ国において電子契約の法令が制定された年度の一覧が図表として紹介されています。

また「電子契約・電子書面の使用が制限されるケースの例」として、同11ヵ国における電子契約・電子書面の使用が制限されるケースの一例が図式にて列挙されているので、各国の相違点がひと目で判別できて便利です。

2.「電子署名」と「電子サイン」の区別

日本では「電子署名」と「電子サイン」という2つの用語があり、両者を混同して解釈している人も多いかもしれません。「電子サイン」という言葉は、主に民間の電子署名/電子契約サービス事業者を中心に使用されていた用語で、法律用語ではありません。記事執筆当時(2020年9月)は実務上用いられていましたが、現在はあまり使われていません。現在は、電子署名の区分として「本人署名型」と「事業者(立会人)署名型」という用語を用いることが一般的になっています。この点については、総務省・法務省・経済産業省が公表している「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」(2020年7月17日)及び「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」(2020年9月4日)を参照してください。

海外では、電子署名一般を「electronic signature」ということが一般的です。その中で、特定の暗号技術を採用した電子署名を特に「digital signature」と呼ぶ場合もあります。どのような仕様上の要件を満たすものを「electronic signature」と認めるかは各国の法ごとに異なりますので、注意が必要です。

Ⅱ 実務上の注意点

企業の法務部門担当者にとっては、諸外国との取引で電子契約を利用する際に、どういった点を留意すべきなのかをあらかじめ熟知しておくことが重要です。『アジア新興国でも電子契約を使用できるか』の第2章では、アジア新興国とのビジネスにおいて電子契約での重要な実務ポイントが解説されています。

1.修正合意書の締結の場合

第1の項目では、アジア新興国との取引で契約の修正合意書を締結する場合、電子契約で起こり得る事案をケーススタディとして想定して、この場合の対応策が提示されています。

CASE STUDY 1

アジアA国との取引契約において契約内容の修正が必要になった場合のケーススタディです。このケースでは、署名した修正合意書をスキャンし、PDF化した合意書に署名の画像を貼り付け、メール送信した場合の法的な有効性について解説が施されています。また、契約の修正方法における重要なチェックポイントの解説も実務上の参考になることでしょう。

2. 労働関連の契約

第2の項目は、アジア新興国で現地従業員を採用している場合に起きる事案のケーススタディです。

CASE STUDY 2

アジアA国で採用した現地従業員の賃金変更を伴う雇用契約更新において、電子サインにて契約書を作成したが、後になって当人が契約無効を主張して以前の賃金を支払うように求めてきたケースです。このようなトラブルが起きる電子サインの問題点と、労働関連契約上のリスクを回避する方策について解説されています。

3.印紙税の取扱い

諸外国との契約実務上で発生する事案の一つに「印紙税」の問題があります。国によって税制が異なるので、印紙税の取扱いには十分な注意が必要です。第3の項目では、電子契約での印紙税の取扱いについてのケーススタディが提示されています。

CASE STUDY 3

日本企業X社が、インド企業Y社との取引を電子契約で行った場合、印紙税はどのように対応すべきか、というケーススタディです。

このケースでの対応策として、日本とインドとの印紙税の違いについて記述されており、同時に、相手国・地域の税法を詳しく把握した上で電子契約を締結することの重要性が述べられています。また、電子契約での印紙税の取扱いについて留意すべき事項について解説が施されており、実務上の参考となる解説です。

4.その他の実務上の ポイント

1〜3で紹介した項目以外にも、電子契約を締結する際に留意すべき事案がいくつかあります。第4の項目では、その他の実務上のポイントが提示され、それらの対応法について解説が施されています。

(1)文書保存義務との関係

紙の契約書が存在しない電子契約において、日本では「電子帳簿保存法」「e-文書法」などの法律により、紙の契約書に代わって電磁的記録での作成と保存が認められています。ここでは、電子契約の文書についても日本以外の各国の法律が異なっている上に、十分な法整備がなされていないアジア新興国との電子契約の際に起きるリスクについて言及されています。

(2)社内の決裁過程との関係

これから電子契約を導入する企業においては、取引先企業との契約実務だけでなく、社内の決裁過程を整備しておくことが必要となります。たとえば、契約条項に関する社内の意思決定および決裁までの重要事項は、これまですべて書面で行われてきた企業があると仮定します。この場合、移行する電子契約を行程の中にどう組み込むかという点が重要な課題です。

ここでは、電子契約導入後に起きる可能性がある問題とその対応策などが挙げられています。

(3)小括

ここでは、電子契約と電子サインの導入を検討している企業に対して、これまで解説された課題点を踏まえて、考慮すべき「3つのステップ」が列挙されています。電子契約と電子サインの導入後に発生しかねないリスクを十分に理解した上で、この「3つのステップ」をクリアすることで、契約実務がより円滑に運ぶことでしょう。

まとめ

日本においても法務省によって、限定的ながら「電子署名」の法解釈が拡大され、今後、電子署名法改正の動きが出てくる可能性は十分にあります。また、加速する技術革新によって、印影の安全性や法務実務の今後についても、現状に甘んじて思考停止をすることは禁物といえるでしょう。

「アジア法務の思考回路シリーズ」の『アジア新興国でも電子契約を使用できるか』では、今後さらに発展すると推測されている電子契約におけるリスクとその対応策などについて、各章ごとに詳しく論考されています。特にアジア新興国を市場とする日本企業の法務担当者には、本書が有効なガイドの役割を果たしてくれることでしょう。インターネットを介して手軽に入手できるホワイトペーパー『アジア法務の思考回路~アジア新興国でも電子契約を使用できるか』をこの機会にぜひご利用ください。

注釈:「【アジア法務の思考回路】アジア新興国でも電子契約を使用できるか」はLexisNexisビジネスロー・ジャーナル2020年9月号に掲載された連載記事です。解説の内容は掲載時点の情報です。

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