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グローバルコンプライアンスの必要性とその強化戦略

企業が厳格なコンプライアンス規定を制定しそれを遵守することは、内外問わず今や世界的なコンセンサスとなっています。特に海外に拠点を持つ日系企業には、グローバルコンプライアンスを重視した体制構築が要求される時代です。しかしながら、世界的規模のコロナ禍の影響で現地駐在従業員数が減少し、多くの日本企業ではグローバルコンプライアンス体制が未だ進んでいないのが実情です。

レクシスネクシス・ジャパンではこのような事態に対応するために、このテーマのウェビナーを開催しました。企業がグローバルコンプライアンス体制を構築する上での重要ポイントや、グローバルポリシー作成の進め方、海外子会社のリスク分析などの具体的な対応策を解説した内容です。

講師は、AsiaWise法律事務所のパートナー弁護士である佐藤賢紀(さとう・よしのり)先生です。佐藤先生は、同事務所のインドアソシエートファームにて現地法人の不正事件や各種トラブル対処などサポート業務の経験を積み、現在は、有事対応チームを立ち上げ、アジア地域の不正やコンプライアンス違反の案件に対応する法的スペシャリストとして活躍中です。

本記事では、同ウェビナーの内容をご紹介します。

1. なぜグローバルコンプライアンスか重要なのか

海外を市場とするグローバル企業にとっては、国ごとに異なる法律や慣習を把握した上で、グローバルコンプライアンスを遵守した体制構築と、不正を起こさない組織作りが急務といえます。第1章では、近年高まっているグローバルコンプライアンスの重要性と、その国際的な社会背景について、海外での講師の体験をもとに解説されています。

1.1 なぜ、近時グローバルコンプライアンスが重要視されているのか

近年、グローバルコンプライアンスが重要視されている要因として、法令違反に対する罰則の強化という点があります。すなわち、当該現地法人だけでなく、グループ他社の行為についての罰則が課せられるというリスクが顕在化してきているのです。

グループ他社の行為に適用可能性がある法律としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ⽶国海外汚職⾏為防⽌法(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977:FCPA)
  • マネーロンダリング防⽌(AntiMoney Laundering︓AML)
  • テロ資⾦供与対策(Countering the Financing of Terrorism︓CFT)

コンプライアンス体制の不備により、海外の⼦会社や関係会社による不正事案が起きると、経済的損失やレピュテーション(評価・信用)が低下するリスクがあります。グローバル企業がグループ全体のガバナンスを維持するには、適切なグローバルコンプライアンス体制を確⽴することが重要なのです。

以下に、海外での不正トラブルの実例が挙げられています。

1.2 実例①

以下は、A国で起きた贈収賄事件の内容です。

① 日本企業のA国B社現地法人にて、同社がA国の労働当局から査察を受け、当局の担当官から「労働法上の労働時間規制に違反している」との指摘を受けた。

② その担当官は「罰金約10万円をすぐ払えば違反扱いにせず、記録にも残さない」と提案してきた(賄賂の要求)。

③ 現地コンサルタントからは「違反は事実なので、今後のことを考慮して担当官の言う通りにした方がよい。自分が話をつけてもよい」とのアドバイスを受けた。

④ B社現地従業員も「A国ではよくあること。他の違反を摘発されると面倒なのですぐ支払いを」と意見する。

⑤ B社現地出向従業員のX氏は、日本本社には連絡せず、独断で担当官に金銭を払ってしまった。

この実例は、当然ながらA国公務員への贈賄という違法行為です。のちにこの件が発覚し、贈賄を許容したXへの処分と、賄賂を⽀払ったA国B社現地法⼈がどう対応すべきか問題になります。

1.2 実例②

以下は、C国でD社現地法人のマネージャーEと同国のサプライヤーが結託して起きた不正事件です。

① Eは材料を相場以上の価格で同国サプライヤーから購⼊し、その上乗せ相当額をキックバックとしてサプライヤーから受領していた。

② D社現地法人の社⻑もまた、キックバックから⼀定金額を受領する見返りとして、Eの不正行為を容認していた。

③ D社の従業員Yは、Eの不正疑惑を認知し、別のマネージャーFに対し、これについて報告する。

④ しかし、Fは社⻑との対⽴を恐れ、不正行為への対応をしなかった。

⑤ その後Yは、D社側から冷遇され職場に居づらくなり退職した。

現地法人社長を共犯とするマネージャーEの不正は発覚に至るまで数年間も続き、会社に数億単位の損害を与える結果になりました。

2. 課題

第1章で挙げた不正事件の背景には、どのような問題点があるのでしょうか。第2章では、企業が抱える本質的な課題について掘り下げます。

2.1 現地の実状把握が困難

現地法人で不正行為が起きやすい要因には、以下のような項目が挙げられます。

① 法規制・⾔語・⽂化が国ごとに異なるので、全ての国の法規制を把握できていない。

② 海外の⼦会社は、⽇本本社から地理的に離れていることで、情報収集や現地従業員のコントロールが難しい。

③ コロナ禍によって現地駐在員が減少しており、現地出張も制約が多く、日本からの従業員派遣が困難な状況となっている。

上記の事由により、日本本社が海外現地の実状を把握するハードルがますます⾼くなっている状況があります。

2.2 本社と現地との役割分担

本社と現地間での役割分担については、以下のような難しさがあります。

① 本社側・現地側の両者の役割分担をどう線引きして区分すべきかがわからない。

② 本社が現地に任せすぎている場合、現地ではコンプライアンスまで手が回らない。

③ 本社が一方的にルールを決定した結果、現地の実情を無視した内容が押し付けられている。

2.3 施策実施後の運⽤と結果の確認

本社サイドで特定の施策を実施しても、以下のような課題が顕在化します。

① 特定の施策が各拠点でどの程度機能しているか、実態把握が困難な情勢となっている。

② 現地の実態に適さないルールや指示では、現地従業員が従わないという事態が起きうる。

③ 現地では、本社では、現地の問題を解決できず、頼りにできないと思われている。

2.4 ⽬指すべきコンプライアンスのレベル

以下の理由から、100点満点のコンプライアンスを目指すことは不可能です。自社で優先すべき課題を絞って対応することが重要です。

① 国ごとに異なる法規制の完全な把握には高いコストがかかる上に規制内容が不明瞭なケースが多い。各海外拠点が社内ルールを遵守し、現地の法規制を把握しているか、実態を確認し評価するのが困難。

② 国によってコンプライアンスの状況や国民の意識はバラバラ。全ての国に対して合格点を同一にすると、ルールが形骸化する可能性が高い。それぞれの国の現状に適合し現地側の課題意識に寄り添うことの重要性。

③ ルールをたくさん作っても、現地従業員が全て読んでくれるとは限らない。むしろ、不正を重⼤化させないために、早期発⾒の⽅法を策定する必要性。

3. グローバルコンプライアンスの実装と施策例

グローバルコンプライアンス体制の確立のためには、何を実装してそれをどう施策すればよいのでしょうか。有効な体制確立のための施策例が紹介されています。

3.1 グローバルポリシーの策定(1)

グループ企業にとっては、グループガバナンスの共通認識となる基盤が必要です。そのために、各種グローバルポリシー(関係会社管理、贈収賄、会計税務、個⼈データ保護、データ利活⽤等)を作成します。作成時には、現場の声を収集し策定プロセスや内容に反映させます。

3.1 グローバルポリシーの策定(2)

グローバルポリシーの作成にあたっては、次の2通りの考え方があります。

① 重要な原理原則をグローバルポリシーとして規定し、具体的な規定は拠点ごとのポリシー作成を原則とする「拠店自律型」

② グローバルポリシーの規定を、原則としてそのまま各拠点に導⼊させる「グローバルガバナンス型」

各企業の特性や環境に応じて選択することが望ましく、⼆者択⼀と限定せずに項目別にバランスをとるのも良いでしょう。

3.2 各⼦会社の情報収集とリスク分析(1)

会社のコンプライアンスに関連して必要と思われる社内規定・ポリシー・マニュアルをリストアップし、各拠点に提出させます。この方法により収集したデータは、リスク評価の材料になるだけではなく、内部監査や有事対応マニュアル作成のための有効な基礎情報となります。

3.2 各⼦会社の情報収集とリスク分析(2)

各拠点のマネジメント業務に対するアンケートを実施し、その内容を分析し、各拠点従業員へのヒアリングを行います。アンケートの内容は、レビューするリソースとの兼ね合いで決定します。一連の流れにおいて、各情報を参照しやすい形で蓄積させていくことが重要です。

3.2 各⼦会社の情報収集とリスク分析(3)

収集された各情報を分析し、それぞれのリスクを検証して重要リスクの優先度を整理します。例えば、重要性/緊急性の軸に基づいて、マッピングしたグラフを作成してみる方法が考えられます。グループ全体はもちろん、拠点や事業部⾨ごとの分析など、⽬的に応じて構成要素ごとに整理すると、当該構成要素の課題が浮き彫りになってきます。

3.3 内部監査の活⽤

各拠点の詳細な情報収集や分析には、内部監査が有効です。管理部⾨(法務部・コンプライアンス部・経理部他)との連携・情報共有ができると、より効果的な監査が可能になります。管理部⾨が収集した内容は、内部監査のテーマ設定に有益な情報となります。

また、内部監査で得られた情報は、問題発⽣時の基礎情報としても利⽤可能です。なお、内部監査を、特定の不正調査を⽬的として行うことも考えられます。この場合、当該拠点、あるいは対象者に対し、特定の不正調査の目的があることを悟られないようにしつつ、通常の内部監査と同様に資料の徴求やインタビューを実施して、調査を行うこととなります。このような調査目的をどこまで共有するかの検討や事前の部門間調整が重要です。

3.4 グローバル内部通報システムの導⼊

内部通報システムを導入して得られた情報は、不正・コンプライアンス違反発⾒の契機となるのみならず、当該拠点のコンプライアンス状況の把握にも繋がります。さらに、他の海外拠点で同様の不正事件の早期発見、あるいは、発生予防のために、極めて有益な情報になるのです。

各拠点の内部通報窓⼝の設置状況を把握することを手始めにして、通報された情報を本社サイドが共有し、⼀括管理できる仕組み作りが理想です。さらに有効な現場の情報収集としては、従業員サーベイ(アンケート)という⽅法もあります。

3.5 有事対応と平時対応のサイクル

有事対応を通じて得られるコンプライアンスの基礎データをもとにして、平時に運用する社内規程や社内の体制をアップデートすることが重要です。その結果、有事が起こりにくい、あるいは有事の際に対処しやすいルール、体制を構築していくことが可能になります。そのためにも、有事の際の対応データや、平時の従業員の意識に関するデータなどを蓄積していくことが有益です。

このような、平時・有事のデータを中⼼とする平時・有事対応のサイクル構造を構成することが理想的です。

4. まとめ

レクシスネクシス・ジャパンが定期的に開催しているウェビナーでは、グローバル企業が今すぐに取り組まねばならない重要なテーマが、誰にもわかりやすく解説されています。今回の「グローバルコンプライアンスの必要性とその強化戦略」においても、課題点を顕在化し、その対応策について具体的かつ詳細にまとめられています。

レクシスネクシス・ジャパンでは、本記事のテーマ以外にも企業が直面するさまざまな重要課題について、各分野のエキスパートによる詳細な解説と分析を加えたウェビナーを随時開催しています。今後開催予定のウェビナーについては、下記イベント・セミナー情報ページをご参照ください。

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