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丸文株式会社 / 現場直結のリーガルパートナー ―現場に寄り添い、信頼される法務を築く取り組みとは

企業を取り巻く環境が急速に変化し、法務部門にはリスクマネジメントの“守り”に加え、事業を支える“攻め”の視点も求められています。

丸文株式会社では、現場に寄り添いながら全社的な法令遵守体制を強化し、社員一人ひとりの法意識を育てる取り組みを進めています。

法務が組織の信頼を支える存在へと進化する――自社での取り組みについて、世界約50拠点でグローバルな事業を展開し、3000社を超える顧客向けに最先端の半導体や電子部品などを取り扱うエレクトロニクス商社の「丸文株式会社」の法務部法務課係長・勝田和人氏に伺いました。

社長直轄の部署として、コンプライアンスを主管するために新設

――最初に、法務部の成り立ちや業務について教えてください。

世の中のコンプライアンス意識の高まりを受けて、2013年に、それまで別々だった法務・コンプライアンス担当部署と安全保障輸出管理関係の貿易担当部署を統合して、法務部を設置しました。

コンプライアンスを主管する社長直轄部署として、本社と国内外の連結子会社・持分法適用関連会社14社の契約書審査や紛争対応、安全保障輸出管理、コンプライアンス、サステナビリティ、ISO対応、医療機器製造販売業者に関する事項など幅広い業務を行っています。

“自社の企業活動・営業活動に資する部門”でありたい

――幅広い法規制に対応するうえで、法務部として大切にしていることは何ですか?

コーポレート部門ではありますが、各事業部と連携しながら、当社が事業活動をより行いやすく、より安定的かつ発展的に経営できるようにしたいと考えています。

もちろん、経営リスクが大きい場合には体を張ってでも止めなければいけないときはありますが、“ブレーキ役”ばかりではなく、企業活動・営業活動に資する部門であることが私たちの理想です。

実際に、一見すると法的に実現がむずかしそうなことでも、「こんなふうに法律を解釈して、こう対応すればよいのでは?」といった助言をよく行っています。

――戦略法務的な動きも重視しているのですね。どのような「法務ガバナンス方針」を立てていますか?

当社は、“グループコンプライアンスの強化と浸透”を経営の重要課題に据えています。そして、株主・取引先・社員など全ステークホルダーの期待に応え、企業価値を向上するために、透明・公正かつ効率性の高い経営を実践しています。

また、コーポレートガバナンスの基本的な枠組みと指針を定めた「コーポレートガバナンス・ガイドライン」に基づいて、“コンプライアンスの徹底”“内部統制と監査体制の強化”“情報開示と透明性の確保”“人権の尊重と職場環境の整備”を行っています。

“コンプライアンスの徹底”では、「テクノロジーで、よりよい未来の実現に貢献する」 というパーパスを掲げて、「独自の価値を提供するオンリーワンのエレクトロニクス商社として最も信頼される存在」を目指して、国内外の法令や企業倫理を遵守しています。

また、幅広い法令を遵守するために「丸文グループコンプライアンス方針」に沿ってCSR教育を毎年実施し、すべての役員・社員の受講率100%を目指しています。

“内部統制と監査体制の強化”では、内部統制委員会を設置して内部統制システムの整備・運用状況を監視し、業務の適正性確保によってリスク管理を徹底。さらに、監査等委員会設置会社として、社外取締役が過半数を占める監査等委員会による経営の監督機能を強化しています。

そして、“情報開示と透明性の確保”のため、企業行動憲章で「誠実で透明な経営」を謳い、自社の活動を適時・適切に開示し、ステークホルダーに対する信頼性の高い情報提供や企業透明性の確保を行っています。

“人権の尊重と職場環境の整備”については、行動規範で「人権、人格および多様性を尊重し、いかなる差別も行わない」と明文化。また、「安全・快適でチャレンジ精神を尊重する職場環境の実現」を目標に、ハラスメント防止ガイドラインを定めて相談窓口を設置しています。

< 参考 >
丸文株式会社 コーポレートガバナンス / 企業理念

法令遵守を“企業活動の基盤”と位置づけ、サステナビリティ経営と独自のCSR教育などを推進

――社内の法令遵守体制や、役職員の法令遵守意識を高めて組織全体に浸透させるためにどのような取り組みを行っていますか?

法令遵守を“企業活動の基盤”と位置づけて、社内規程の見直しを定期的に実施し、役職員が業務を遂行する際の判断基準を明確化して、法令やルールの遵守体制を維持しています。

また、2001年に環境マネジメント国際規格(ISO14001)の認証を取得していて、法規制等順守状況報告書を作成しています。

そして、全役職員向けの取り組みとして、当社の5つのマテリアリティ(重要課題)と13のキーテーマを特定・公表しました。これらを踏まえたサステナビリティ基本方針のもと、全社でサステナビリティ経営を推進しています。

さらに、すべての役員と従業員、社内に常駐する協力会社の社員さん向けにCSR教育を行って、一人一人のコンプライアンス意識を徹底しています。

< 参考 >
丸文株式会社 マテリアリティ(重要課題)

――CSR教育を行ううえでの工夫を教えてください。

教育内容は、取り上げるテーマを毎年変えてマンネリ化を防ぎながら進めていて、さまざまな領域を網羅して学べるのが特徴です。

そして、「教育して終わり」ではなく、その後に確認テストも実施しています。テストを通じて個々の理解度や意識の浸透度を確認でき、結果を記録しておいてISO9001の運用・維持などで利用できるのもメリットです。

これらの教育施策で、この3年ほどでコンプライアンスとサステナビリティに関する意識が全社でかなり浸透してきています。

――ほかに、社内・グループ内での意識の向上や浸透のために行っている施策はありますか?

社長からのメッセージをイントラネット上で継続的に発信し、行動規範を解説するハンドブックにも掲載しています。また、社長をはじめ、役員や社外取締役も法令遵守を非常に重視していることも全社に良い影響をもたらしていると思います。

さらに、法務部が社長直轄なので、経営層との“風通し”の良さも当社の特徴です。そのため、コンプライアンスに対する経営陣のコミットも強く、役職員への浸透も進みやすいですね。

法政策情報のモニタリング強化、法令調査の工数削減と業務効率化、 判例検索の迅速化が必要

――少しお話を戻して、「コンプライアンスの徹底」についてもう少し詳しく伺いたいです。国内外の法令や企業倫理の遵守に向けて、特にどのような分野やテーマを重視して取り組まれていますか?

国際的な事業範囲に対応するため、輸出入規制や製品安全規制、経済制裁などに関する精緻な理解を重視しています。特に、安全保障輸出管理は非常にクリティカルな分野なので細心の注意が必要です。

また、“取り扱う製品の技術的特性”דグローバルな商流”דお客様・仕入先との信頼性”という3つが交差する領域における法令対応も特に重要なポイントになります。

一例をあげると、最先端の半導体・電子部品を取り扱っているため、軍事転用リスクや高度技術の輸出規制、化学物質・環境関連の法規などへの対応に力を入れています。

――多岐にわたる法令のなかで、特に重要視している分野や、対応を強化しているテーマを教えてください。

法令違反した場合のダメージなどのリスクを計測して、その大きさに応じて対応しています。たとえば、安全保障輸出管理関係で法令違反となると、即、輸出入取引に影響が出ます。ですから、厳格な事前対応をとることが最重要ポイントです。

また、医療機器製造販売業者の許可を取得して医療機器も取り扱っているので、この分野の対応も重視しています。

さらに、最近はCO2排出量についても厳しくなっていますから、サプライチェーン全体(Scope1・2・3)での排出量の把握・削減に関する対応にも注力中です。ほかにも、ロボットやIoT・ソフトウェア領域の新規ビジネスへの法務対応にも重点的に取り組んでいます。

――さまざまな法務対応を進めていく中で、特に課題に感じていた点やお困りごとはありましたか?

先ほどお話ししましたように、当社は事業を国際展開していますので、日本国内の幅広い法分野への対応が必要です。

また、企業活動の基盤として法令・ルールの遵守を重視していますが、「法令の制定や改正が多く、各内容を法務担当者以外が把握・理解するのがむずかしい」という課題がありました。

さらに、ISO14001対応のために法規制等順守状況報告書を作成する際、官報を見ながら手作業で行うことが大変だったため、効率化できるソリューションを探していました。

ソリューションを選定する上で重視していたのは、次の3点です。

1つめは、必要な情報の見逃しを防止して、“法政策情報のモニタリング強化”ができること。2つめは、法令の検索・照合にかかる負荷を軽減できて、“法令調査の工数削減と業務効率化”を実現できる点です。

そして、3つめは“判例検索の迅速化”のために、リスク評価や社内説明に必要な根拠を的確に取得できるというメリットです。

――そういった理由から、弊社のASONE 法政策情報 と エデュケーション(以下、ASONE)をご導入いただいたのですね。ありがとうございます。

最終的に費用対効果面でもメリットがあると感じて2013年頃に導入しましたが、当初は別会社のサービスと2つを併用していました。しかし、現在は「ASONE」だけを使い続けています。

ASONEによってアラート配信による迅速な情報収集で、法令の改正通知を即時に把握できるようになりました。それによって、各従業員が自分に関係がある法令情報の収集にかかっていた膨大な工数を削減できています。

また、利用者が必要なときにすぐ情報検索できるようになりましたし、導入以前の“法改正情報収集の属人化”も解消されました。さらに、全社的な法令遵守体制を構築するうえで、部門間での情報共有や内部統制にも役立っています。

「法令の一次情報だけでなく、解説記事が充実している」「新旧対照表が横並びの構成で比較しやすく、要点ごとに解説があるので非常に理解しやすい」という点も良いですね。

近年、企業倫理や社会貢献、環境保護など、より幅広い分野にコンプライアンスの概念が拡張されて、企業に求められるコンプライアンスは複雑化・多様化・高度化してきました。

ASONEは複数のモジュールで構成されていて、そのような時代の変化に対応した自由度の高いサービスだと感じています。

また、『法政策情報』に国内1700以上の地方自治体の条例も含まれているので、ISO14001対応するうえで非常に便利です。

「いかに工夫してソリューションを使うか」で、それはより効果的に

――ソリューションをただそのまま使う、ではなくて、独自の工夫をされているとのことですが?

当時はまだ「ASONE使い方ガイド」がなくて、活用方法がわからない利用者から「アラート配信の情報が多すぎる」「自分に関係ない情報が届く」といった“情報ノイズ”に関する声が一部挙がっていました。

そこで2021年に、“事業に関連する法令・政策のウォッチと積極的な周知”を目的に、利用状況と満足度に関する社内アンケートを実施しました。

「ほしい情報が見つかる」「情報が正確かつ網羅的」「関連文書へのリンクが便利」などの声がある一方で、「利用方法や検索方法がよくわからない」「条件を自由に変更したい」という回答も複数見られました。

そこで、アンケート結果をもとに、2種類の社内向けマニュアルを独自に作成・配布しました。

1つが「アラート設定マニュアル(以下、設定マニュアル)」で、利用者がほしい情報を簡単に設定する方法などを説明するものです。また、ASONEの管理者・利用者間でシステムを活用するための共通理解の促進も目的でした。

もう1つは、「検索方法マニュアル」です。「せっかくシステムを導入しても、実際に法令を検索して活用されないと効果が出ない」と考えて、“法令・条例を探す”タブを利用して検索する方法などを紹介しました。

――マニュアル配布後の変化や成果を教えてください。

「設定マニュアル」で“キーワード配信”から“法分野配信”への設定の切り替えを促したことで、個々が自分に必要な情報を取捨選択できるようになりました。

また、配信内容を読んだ利用者が「自分にはこの分野の情報は不要」と気づいて、システム管理者に配信設定の変更を依頼してくるケースが多く見られるようになりました。結果として、「それまでは“ノイズ”と感じていた情報の精度が上がった」という印象です。

導入当初は法務部関係者のみが利用対象でしたが、現在は“営業をサポートする部署”や“組織全体の業務プロセスの運用を調査・評価して改善を促す部署”など、多岐にわたる部署に活用範囲を広げています。

法律の成立などの基本情報やタイムリーなトピックスも随時提供し、“法への理解”を深化

――「設定マニュアル」に、ユニークな“資料編”を添付して提供しているとお聞きしました。

資料編では、そもそもの法律の成立から、公布・施行のプロセス、法改正の“溶け込み方式”といった基本知識を図解入りでわかりやすく説明しています。

たとえば、COP(締約国会議)が行われる前などに、「世の中でどういったことが起こると、どういう法律ができるか」といった流れも含めて解説しています。法令改正にあわせて最低でも年1回はリニューアルしていて、「どうすれば興味を持ってくれるか?」と工夫しながら、グラフなども全部自分で作成しています。

――そういった資料編を作成される際の一次情報収集にも、ASONEを活用しているのですか?

はい。その情報をもとに法務部で取りまとめて、単に改正条文の列挙ではなく、“改正の背景”や“変更箇所の要点”を簡潔に整理した資料を提供しています。

また、資料作成するうえで、社内のコンプライアンス方針や各種社内規程の見直しの際に「どこが、どのように変更されたのか」が一目で分かるように整理しているため、文言修正の検討や改定の必要性の判断を迅速にできるように工夫しています。

以前は紙の官報を見ながらつくっていたので、ASONEを導入して作成業務も効率化されて便利になりました。

法律や法務部に対する“敷居”が解消され、“法に対する感度”も向上

――それほど詳しい解説が入ったシステム利用マニュアルは珍しいと思います。どのような効果がありましたか。

資料編を添付することで、法律に詳しくないひとも「法改正がなぜ起こるのか」がイメージしやすくなったようです。

また、アラート配信で届いた情報に対して利用者が「この改正は自部門に影響があるかも」「何か意味がありそうだ」と感じて、自発的にASONEで検索するという行動が徐々に定着してきています。

――これまでのさまざまな取り組み全体を通して、社内での“成果”や“変化”などがほかにもあれば教えてください。

法に対する「よくわからない」というイメージが払しょくできて、「法務部に、気軽に相談しよう」という環境がつくれたと思っています。

本社の営業部など事業部門の一般社員から、課長・部長クラスの管理職、本部長まで、そしてグループ会社の役職員など、さまざまなひとが気軽に相談してくれるようになりました。

新しい製品・サービスの取り扱いや新規取引、新事業などに関しても、みんなから相談に来てくれて、かなり早い段階から情報を入手して対応できています。ですから、先ほどお話ししたような「法令違反になるもの以外は、事業に資する形でサポートする」という法務の役割も担えているのではないでしょうか。

――これまでのさまざまな取り組みがあったからこそ、皆さんの“法に対する感度”も高くなってきているのですね。そういった新しいものに対応するには、それ自体の知識に加えて、関連する法規制の知識なども必要だと思います。どのように対応していらっしゃるのですか?

おっしゃる通りです。最近では、AIを活用する際に著作権についても知っておく必要があります。また、新しい技術やサービスに法規制がまだ追いついていない場合は、海外の事例をもとに予測することもあります。

法律面に限らず、新しい知識を幅広くどんどん吸収・理解して、経験のない新事業が発生した場合や、最先端の技術・商材を扱いたいという場合でもすぐに対応できる体制を整備中です。

多様化する製品・サービスに関する法対応や、AIを活用した高度な対応体制なども強化を

――今後、法務面で強化したいことや施策などを教えてください。

現在、商権拡大のために新規事業の立ち上げが加速していて、取り扱う製品・サービスも多様化しています。この変化によって、従来以上に広範な分野の法令に接する機会が増え、全社での継続的な法務知識の習得・アップデートの必要性を感じています。

また、コンプライアンス体制の強化に加えて、サステナビリティ対応、特にCO2排出量の削減やその可視化が急務となっていますので、全社的な対応体制をさらに強化していきます。

そして、法務部内では、若手の育成やAI導入による審査業務の効率化、複雑化する契約リスクへの対応も進行中です。加えて、安全保障貿易管理においては、輸出規制の複雑化に伴ってAI技術を活用した高度な対応体制の構築も行っています。

――中長期計画のなかで、法務部として達成したい“ゴール”はありますか?

企業が事業を行っていくうえで、法務独自での“ゴール”というものはないと考えています。

企業も事業も生きていますから、当社の経営・事業の流れに寄り添って、適切に法対応ができる体力を持っておきたい。それが、私たちの想いです。

丸文株式会社
法務部 法務課 係長 勝田 和人 氏

 

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