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【第2回】コンプライアンス担当田中のコンプライアンス体制構築の軌跡

By: 法務部コンプライアンス担当 田中

「法令を知らなかった」は通用しない

―法改正の“見逃し”が企業リスクに直結する今、田中が動いた。
LN製造株式会社のコンプライアンス強化とASONE導入事例

「知らなかった」が許されない時代。法改正の頻度と複雑さが増す中、LN製造株式会社のコンプライアンス担当・田中(仮名)は、全社の法令対応に立ちはだかる“見えないリスク”と日々向き合ってきた。これは、現場任せの限界に気づいた一人の担当者が組織を動かし、仕組みを構築するまでの軌跡である。
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■プロローグ:静寂を破る着信

午後3時17分。
法務部コンプライアンス担当・田中の内線電話が鳴る。発信元は法務部課長・黒岩。 その瞬間、田中の背筋に緊張が走った。
「今すぐ来てくれ。」
受話器越しの声は、普段の温厚な黒岩とはまるで別人のように鋭く、緊迫感に満ちていた。
ディスプレイに視線を落としたまま、田中はそっとPCの蓋を閉じた。緊張が手先に滲んでいた。法務部までの数十メートルが、異様なほど長く感じられた。

■発覚:水面下の危機

「内部通報が入った。関東工場で水質汚濁防止法違反の疑いがある。」
黒岩は間髪を入れず、低い声で切り出した。
机上に置かれたファイルには、通報者が提供した排水データの記録が並ぶ。

「通報者持参の排水データだ」

実測値:0.3mg/L、0.4mg/L、0.5mg/L…

基準値0.1mg/Lを大幅に上回る数値が、過去三年間にわたって継続していた。
「三年前の法改正で基準が0.5から0.1に厳格化された。現場は改正を把握していたが、だが現場への『落とし込み』ができていなかった。旧基準のまま、三年間だ。三年間、連続して基準値を超過し操業を続けていたんだ」

本社でどれほど整備された体制があっても、現場に『仕組み』がなければ意味を成さない。

「現地調査を頼む。今すぐだ」

「承知しました」

田中の声は、かすれていた。

■過去:時の止まった工場

関東工場は創業から50年以上を数える老舗工場。かつてはLN製造のマザー工場として稼働していたが、海外拠点へと生産が移管され、今では小ロット生産に特化した旧設備の稼働拠点となっている。構内を歩けば、動かなくなった製造ラインが過ぎ去った時代を思わせるように並んでいた。

この工場には、かつて『環境の神』と呼ばれる存在がいた。
2000年代初頭、ISO環境認証が企業の生命線となった時代。関東工場が血眼になって認証取得を目指していた頃に環境管理のエキスパートとして鳴り物入りで入社した。
排水処理、法令対応、行政報告、ISO監査ー
20年間、この工場の環境管理のすべてを一手に引き受けてきた。現場の誰もが、彼を頼りにしていた。

「『環境の神』がいる限り、この工場に法令違反は起きない」

しかし退職後に後任は置かれず、業務は総務課が「兼務」する形に。
その結果、環境管理は実質的に“空白”となっていた。

■現実:可視化された属人化の構造

工場正門で田中を迎えたのは、総務課長と環境関連業務の一部を引き継いだ山田だった。

「現状を確認させていただきたい」
田中の言葉に、2人の表情は強張った。
会議室に案内され、田中の前に置かれたのは、旧式のノートパソコン。

「ENV_2001-2020」
田中はフォルダをクリックする。中身を見た瞬間、目眩がした。

「排水_3月.xls」「報告用_最新版.xlsx」「最終_ver2.xls」「基準値チェック_要確認.xlsx」「コピー_排水_3月_修正版.xls」

フォルダ内に、爆発したように同じような名前のスプレッドシートが散乱していた。 しかも最終更新日は、すべて2020年3月で止まっていた。

田中は震える手で、一つのファイルを開く。

水質汚濁防止法の管理台帳。だが法令根拠の欄には「水質汚濁防止法」という法律名しかない。条文番号も施行令の条項も都道府県条例の詳細も、何もない。 環境法のスペシャリストの彼なら理解できたのかもしれない。 だが他のメンバーにとっては...

「これでは法改正があっても、誰も対応できない」

■断絶:現場の混乱と犠牲者たち

「この台帳は、どなたが管理を?」

田中の問いに、山田は困惑の表情を浮かべる。
「それが...複雑すぎて、どこをどう変更すれば良いのか、誰も手をつけられないのです。」
測定データは毎月取られていたが、新基準が現場に周知されていなかった。

「三年前の法改正で、基準値は0.5から0.1に厳格化された。五分の一になったんです。」
田中の説明に、2人の顔が青ざめる。

「なんとなく法改正は知っていたのですが、具体的にどこに影響するか分からず、条例の記述が断片的で、結局そのままに...」

その声が、田中の胸に突き刺さる。

田中は現場担当者へのヒアリングを進めた。
数年で製造課に配属されている若手の鈴木。工学部出身で環境問題への関心も高い。 法令対応の重要性は理解していたが、ファイルに手を出すことを恐れていた。
「スプレッドシートが壊れそうで怖い...」
「どれが最新版か分からない...」
「新しいシステムがあれば、僕たちのような若い世代でも対応できるはずなんです」
彼の言葉には、責任感と同時に無力感がにじんでいた。

田中は現場の切実な声を聞いて、問題の深刻さを改めて実感した。

■決意:田中の覚悟

関東工場のオフィス棟。
田中は排水データとヒアリング記録に目を通しながら、レクシスネクシス社から届いていた提案書を手に取った。

「業務規程コネクト」「法改正連動通知」「属人化の解消」

以前から気になっていたが、「まだ早い」と思っていたソリューション。
田中は静かに、しかし確固たる意志を込めて言った。

「これしかない。」

■選択:静かなる助言者の登場

翌日、田中はレクシスネクシス・リサーチ&コンサルティングに連絡を取った。面談をした担当者の革靴は良く磨かれているが、ソールの減り具合から数多くの現場を歩き回っていることが分かる。
担当者は、残されたスプレッドシートに目を通し、深く息をついた。
「これは典型的な属人化のケースです。すばらしい情報量と正確性はあるものの、これでは第三者が更新できない。」
「解決策はありますか?」
田中の問いに、担当者はタブレット端末を開き、システム画面を見せながら答えた。 「『業務規程コネクト』なら、法改正があれば、ピンポイントで該当箇所の把握ができるので、担当者はどこを変更すればいいかが一目で分かります。」

  • 法改正に連動したアラート通知
  • 法改正内容をすぐに判断できる新旧対照表
  • 各業務文章や届出事項に対して法改正の対応状況が可視化できる
  • 公布、施行など法改正のステータスに応じたシグナル表示

田中の心に、一筋の光が差した。

「現場の再発防止には、この一手に懸かっている。」

田中のその言葉には、確かな手応えと、次の一手への覚悟が込められていた。

■本格始動:重役会議の対峙

数週間後、予算会議にて。
田中は役員陣の前に立ち、静かに語り始めた。
「関東工場の事案は、氷山の一角に過ぎません。」
会議室の空気が緊張に包まれる。

「他工場においても、同様の属人化や対応漏れが存在する可能性があります。今後、法令違反が顕在化すれば、罰則・行政処分・信用失墜は免れません。
必要なのは、“費用”ではなく、“将来への備え”です。」

田中の声が会議室に響く。
田中の言葉には、静かながらも力強い説得力があった。
予想に反し、大きな反論は起きなかった。関東工場の衝撃が、組織全体に深く刻まれていたのだ。

「導入を承認する。」

社長の一言が、すべてを決定づけた。

■導入:変革の始まり

導入から3か月後。

田中は再び関東工場を訪れた。
出迎えた総務課長と山田の表情には、以前のような緊張はなく、代わりに安堵の色が見えた。
「田中さん、本当にありがとうございました。」
「スプレッドシートは、まさに悪夢でした。でも今は誰でも更新できます。心の重荷が取れました。」

もちろん、導入直後から順調だったわけではない。
最初の1か月間は、システムの操作に戸惑う声が多く、現場では不安の声も上がった。 「私たちで本当に運用できるのか……」
しかし2か月目に入ると、鈴木を中心に積極的な活用が始まり、変化の兆しが現れた。
「『業務規程コネクト』が導入されて、本当に良かったです。」
その表情には、確かな自信が宿っていた。

■成長:半年後の進化

導入から6か月。

関東工場では、

若手社員を中心とした環境モニタリングチームが正式に発足

現場の雰囲気は確実に変わっていた。
山田は、今では環境管理の実務責任者として周囲から信頼を得ていた。
「田中さんのおかげで、私たちも誇りを持って仕事に向き合えるようになりました。」
鈴木は、システムの全社展開を積極的に提案するまでになっていた。

「この仕組みがあれば、すべての工場で同じ水準の法令管理が可能になります。」

「正直に言えば、本社からコンプライアンス担当が来ると聞いたときは“処罰”を覚悟していました。ですが、問題の本質を見極め、解決の道を示してくださった。心から感謝しています。」
「これなら、誰が担当になっても大丈夫です。」

現場の声が、確実に変わっていた。

田中は、今回の取り組みを報告書にまとめ、こう記した。

「法令遵守は、システム導入で終わるものではありません。 それが日々の業務の中で組織の“文化”として根づくまで、取り組みを止めてはならないのです。」

-----次回予告------

関東工場の再発防止策が軌道に乗ってから1年。 田中のデスクに、新たな封筒が届く。 別の工場から、別の課題が持ち上がった。 田中は静かに目を閉じた。 あの深夜、覚悟を決めて下した判断が、確かに未来を変えたことを感じていた。 そして、次の戦いが始まろうとしていた。
コンプライアンス担当田中の挑戦は、まだ続く。

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